loadingIcon

Director’s Interview

中江功監督インタビュー

前作のドラマ放送から16年ぶりに映画として製作される『Dr.コトー診療所』。
2003年の第1期より演出を務めプロデュースにも携わっている、本作の中江功監督より、
映画にまつわる企画の経緯やキャストに関すること、映画化への想いについて語っていただきました。

16年ぶりの続編『Dr.コトー診療所』映画化の経緯

何年かに一回、フジテレビ内外で続編の話は出てました。吉岡さんとも会うたびに雑談レベルで、“続編をやるならどういう内容がいいか”などを話していたんですが、これといったテーマが決まらず、なかなか「さあやろう」とはなりませんでした。『Dr.コトー』としてはある程度やりつくした感もありましたし、内心もうやれないだろうなという気もしていました。
そんな中でコロナ禍となり、人の生死について考える時間が増えました。やりたいことはやれるうちにやらないと、という思いも強くなり、吉岡さんに「もう一度同じメンバーで『Dr.コトー』をやりたい」と伝えたんです。連続ドラマにすることも検討しましたが、多くを語らずして見せるコトー先生のキャラクターはある意味映画向きですし、あの島の自然、美しい風景をスクリーンで見たいという思いもあって。『Dr.コトー』の集大成的な作品にして、劇場に足を運んで見ていただくものにできればと考えました。
TVドラマから始まったシリーズなので、吉岡さんは映画化に抵抗があるかなと思っていたんですが、「監督がやるならやりますよ」と言ってくれて、「え、ほんとに?」と(笑)。すごく嬉しい言葉でした。そこから一気に映画化企画が動き出しました。せっかく作るなら今作る意味がないといけないですし、プレッシャーはかなりありましたね。

映画化にあたってのこだわり

映画化にあたり、こだわったことのひとつが、レギュラー出演者の方たち全員に出てもらうこと。16年経っても相変わらずこの人たちはこの島で生きている、ということをやりたかったので、少しずつでもいいから、それぞれの今を見せたいと思いました。
脚本の吉田紀子さんと打ち合わせを始めたのは2020年の夏頃です。脚本を作るうえで大事にしたのは、コトー先生が今をどう過ごしているのか、何を思っているのかを考えることでした。吉岡さんが、以前続編を作る時に「コトー先生は何かを背負っていないとあの坂道で自転車のペダルを踏むことができないと思うんです」と言った言葉が忘れられなくて。なので吉岡さんに、そしてコトー先生に納得してもらえる内容にしたかったんです。 吉岡さんのことは若い頃から知っていますが、浮世離れしているというか、いまだに掴めないことがたくさんあります。どうすればああいう佇まいになるのか、まったくわからない(笑)。前回までもそうですが、今回も「吉岡さんがコトー先生をやるなら」と出演者が集まりました。それほど存在感があって魅力的なんですが、自分が自分がというタイプではなくて、ふと存在感を消すこともできる。オーラを出す人はたくさんいますが、それを消せる役者は実は少ないんです。不思議なスイッチを持っている人だなと思います。

主演:吉岡秀隆

前作から16年経って、コトー先生が変わったところは、髪の色ですかね(笑)。僕は違和感なかったんですが、最初にスーパーティザービジュアルが解禁になったときに、かなり反響がありました。
吉岡さんとの出会いは、僕が入社1年目で、一番下っ端の助監督として参加していた『北の国から’89帰郷』。そのときはそんなに話した覚えはないんです。その後、『北の国から 2002遺言』が終わって、吉岡さん主演で新たに『Dr.コトー』の企画が立ち上がったとき、『北の国から』経験者としてなぜか僕がやらせていただくことになりました。『北の国から』で吉岡さんが演じた純くんは、TシャツやトレーナーにMA-1を着ているイメージだったので、それとは違う印象にしたくて、まずはとにかく襟のついたシャツを着てもらいました。単純ですけど(笑)。あと声のトーンも変えてもらいました。普段の声を変えるっていうのは実は大変なことだったようで、随分経ってから「すごいこと言うなぁ、って思ってました」と本人に言われました。自然すぎて僕が気づきませんでしたけど(笑)。この16年間、ずっと身体の中に眠っていたコトー先生を呼び起こし、改めてコトー先生として白衣を着るにあたっては、かなりの覚悟と心の整理が必要だったと思います。
今回、初日に撮影したのが、コトー先生が自転車で往診に行くシーン。16年ぶりでしたが、白衣を着て自転車に乗ったらもうコトー先生でした。今回は電動自転車でしたけどね(笑)。そして、あのコトー先生独特の声と言い回し。そうそうこの声っていう感じで懐かしかったです。初日でちゃんとコトー先生に戻ってました。

レギュラーキャスト再結集

柴咲コウさんや、小林薫さん、時任三郎さんに一人ずつ会いに行って、「また同じメンバーで『Dr.コトー』をやりたい」という話をしました。筧利夫さんは他の作品でご一緒したとき、泉谷しげるさんと朝加真由美さんは別仕事でフジテレビに来られた際に捕まえて、大塚寧々さんは電話連絡だったかな。とにかく直接伝えたほうがいいと思い、またやりますよ、とみなさんにお伝えしました。小林薫さんは「わざわざ来なくていいのに。決まったらやるからさ」っていうリアクションでした。「そんなに簡単でいいの」と思いましたね(笑)。
面白いことにみんな「やれば?」って他人事のように言うんです。「いい作品だからやったほうがいいよ」って僕に言うんですけど、自分たちもその一員なのがわかってるのかなって(笑)。ちょっと視聴者側の気持ちになっているのかもしれないですね。でも作品を見ることを楽しみにしている雰囲気が伝わって嬉しかったです。
誰もが気にしていたのが、剛洋のこと。「剛洋は出るの?」ってみんな聞くんです。演じた富岡涼くんはもう役者を引退して会社員になっていたんですが、やっぱり本人に演じてほしくて会いに行きました。2週間ぐらいで「やってみます」と返事がきました。彼が働く会社に打診したら大丈夫そうだというので、プロデューサーと社長のところにご挨拶しに行って、「しばらく富岡くんを貸してください」とお願いして出演してもらいました。久しぶりの演技でしたが、お芝居の間合いも、体の動きも、子役の頃と何も変わっていなかったです。何よりも、スタッフとキャストが剛洋が変わってなくて喜んでいることが一番嬉しかったです。

新加入キャストの参加

今回から加わったのが、髙橋海人くんと生田絵梨花さん。髙橋くんは初めてご一緒しました。初対面の印象は、真面目で清潔感のある好青年アイドル(笑)。一見、ふにゃっとした弟キャラなイメージでしたが、話をしてみると、芝居をちゃんとやりたいという意思をしっかり持っていて、野心的な意欲のあるところもギャップがあって良かったです。髙橋くん演じる都会から来た異分子である判斗が島の人々にもたらす気づきが物語の大事な要素になってます。クセのあるベテラン達の中で荷が重い役でしたが、一人の役者としてしっかり存在感を放っていると思います。
生田さんとはアイドル時代にお仕事したことはあるのですが、すっかり役者になってました(笑)。生田さん演じる那美は、彩佳二世のような位置づけなのですが、生田さんは声が良くて、セリフがよく通るうえ、那美の気の強そうな感じも、ずっと島で生きてきた雰囲気も出せていて非常に良かったです。ご本人は真面目過ぎるほど真面目で、医療シーンなんかも一生懸命練習して、すべてを完璧にやろうとする。だけど、天然なところもあるのが微笑ましくて可愛いかったですね。そこはまだスタッフ・キャストのアイドルでした(笑)。

監督にとって『Dr.コトー診療所』とは?

僕は紹介されるときの枕詞として、「Dr.コトーの」とよく言われるんです。でも、自分としては、「他にもいろいろやってるし、もっと数字取ってるものもあるし、そのひとつに限定しないでほしい」って思っていたんです(笑)。でも今回の撮影を通して、撮影の方法もお芝居の考え方も、『Dr.コトー』は今の自分にかなり影響を与えた作品だったと改めて強く感じて、今になってようやく「これは自分の代表作なんだ」と思えました。今さらですけど(笑)。
何といっても、吉岡さんに出会えたのはすごく大きい。年齢は僕より若いですが、ご承知のようにキャリアは長くて、あの黒澤明監督や、山田洋次監督、渥美清さんや、高倉健さんとも同じ現場を過ごしてきた人です。ドラマの最初の頃は、僕なんかが太刀打ちできるわけがないと、現場に行くのも緊張していました。台本の読み方、役への向き合い方、芝居の仕方など、吉岡さんに教えてもらったことはずいぶんあります。ちょっとでも手を抜くとすぐばれる、画に出ることも痛感しました。さすがに今は緊張するより、会えないと寂しいくらいになりました(笑)。向き合って戦うことも、同じ方向を向いて戦うこともある戦友のような関係だと思ってます。思えば、吉岡さんだけでなく、この作品で出会えた役者さんにも同様にいろんなことを教えてもらいました。そういった意味を含め『Dr.コトー』に並ぶ代表作と呼ばれるものを作ることが、これからの僕の目標ですね。

映画を楽しみにしている方々へメッセージ

2003年の1作目(連続ドラマ)は都会からやってきたコトー先生が島の人たちに受け入れられ、必要とされる存在になるまでを描きました。2004年の2作目(スペシャルドラマ)では島の人たちとコトー先生に新たなつながりができ、2006年の3作目(連続ドラマ)では家族のような存在の彩佳が病気になって、改めて家族について考える、ということを描きました。そして今回は、コトー自身がいろいろなことを経験することを通して、人はそれでも生きていこう、ということがテーマです。
前作から16年分の時間は経っているんですが、島の人たちは変わらず、あの島で生きていてこれからも生きていく。誰しもこの世に生を受けた限りは与えられている使命があるのだろうし、いろんな思いを抱えながらも、その使命をちゃんと全うして、何があっても生きていかないといけない。そんなことが押しつけがましくなく伝わるといいなと思っています。
映画『Dr.コトー診療所』は、ドラマをご覧いただいていた方はもちろん、映画から見る方も楽しんでもらえるように意識して作りました。お正月映画ということもありますし、離島の診療所で働く先生と島の人々に会いに来ていただいて、明日も生きていこうって少しだけ思ってもらえれば嬉しいですね。